2018年 12月 の投稿一覧

8話 患者の来ない動物病院

 開業する前にいろんな先生たちの話を聞いていると、当時は「3年我慢すればなんとかなるよ」とか、「真面目に診療をしていればお客さんは自然と増えていく」的なことをよく聞いたものでした。でも今から考えると、そんなことを言っていたのは自分よりも10年以上前に開業した先生たちであり、すべてが遠い昔の神話に過ぎなかったのです。

 たぶん開業前の事業計画では1日平均5~7件くらいを想定していたんじゃないかと思うけど、実際は0や1のオンパレード。1日5件以上来る日なんてめったになく、「今日何しに来たんだろ?」状態でした。そんな状態でできることといったら、なるべく時間外の電話を受けて夜間診療で稼ぐことです。他に夜間診る病院が少なかったのもあって、1、2日に1件くらいは診察をしていたと思います。夜診察して、昼に寝てたことの方が多かったんじゃないだろうか?夜間診療にはたいへん助けてもらいました。

 少しずつは増えているような気がしても、しばらくガクンと落ち込む月があったりで、売り上げはかなり不安定です。運転資金はすごいスピードで減っていくし、併設のトリミングはいっこうに売り上げが上がらず、トリマーさんは毎日掃除だけしていました。そんな毎日に嫌気が刺したのか、売り上げを上げる努力をしなさいとプレッシャーをかけたのがまずかったのか、半年も経たない頃、トリマーさんから「辞めたい」と告げられました。初めて雇った従業員さんにこれを言われるのはけっこうショックなものです。病院の方もうまくいってないのに、「これは本当につぶれるんじゃないだろうか?」本気でそう思った時期もありました。

 動物病院は集客が非常に難しいです。地道に口コミなどで増えていくのを待っているだけの受け身の経営になることが多く、普段できることは限られています。それでもなくはないのでいくつかご提案。

・動物病院があることが一目でわかるように

 私の場合、病院の外観も看板もオシャレに作りすぎてしまったため、近隣の方にもなかなか動物病院があると気づいてもらえませんでした。車で通りすぎる人々からも気づいてもらえるくらい、業態はしっかり伝えましょう。

・ホームページは必須、できればSNSやブログの投稿も

 今時ホームページも作らず開業する人はいないと思いますが、やっぱり重要度は高いですよね。しかもただ作るだけでなく、内容も集客力があるものでないといけません。患者の来ない動物病院では役に立たない診療の勉強より、効果的なHP作りやSNS投稿について勉強しましょう。SNSやブログはホームページへとつながる枝です。たくさん伸ばすほどホームページのアクセス数は上がりますよ。

・開業したての頃は夜間や往診に助けてもらう

 やりたくない人も多いようですが、患者の来ない動物病院が売り上げを上げられる、数少ない方法です。どうせヒマなんだから、しっかりやって少しでも赤字を減らしましょう。診察が増えてきたらいつでも止められます。

9話 1年目で閉院か? へ続く

7話 待ちに待った開業初日

 足りないものだらけで不安に駆られながら、とうとうその日はやってきてしまいました。「もしいきなり麻酔処置が入ったらどうしよう?」「抗がん剤とか全然ないけど、いきなり腫瘍なんて来ないだろうな?」などと心配しつつ、期待に胸を膨らませて病院を開けました。

 さすがに最初からたくさんはこないだろうとは思っていましたが、本当に静かな開業でした。「一生で一度あるかないかのイベントが、こんなものでいいんだろうか?」どんどん不安になります。そんな時、駐車場に車が入ってきました。「やっと来たか」そう思って迎えに出ると、スーツ姿の男性がペットも連れずに1人。開業準備中からこういうことは度々あったのである程度慣れてはいましたが、案の定営業の方です。「お忙しい時に申し訳ありません。」(いや、全然忙しくないし。見たらわかるだろ?)開業後の焦っている時にはそこそこイラついてきます。開業直後の来客はその多くが営業の方ですので、暇つぶしに話を聞いてあげるのもいいかもしれません。

 そんな営業の相手にも飽きてきた時、とうとう犬を連れた方が現れました。しかもゴールデンです。自然と笑顔があふれてくる、そのまま「こんにちは~」とあいさつをしました。当然始めての方なので初診票を渡しながらちらっと犬の方を見ると、何か巨大なものがおしりのあたりにぶら下がっています。ハンドボールくらいはあるでしょうか。とても嫌な予感がしました。そして、書いていただいた初診票をみると、「15歳」。「1番最初のお客さんがこれか?」正直まともに道具もそろっていない開業したての病院で、高齢犬の巨大な腫瘍オペは重すぎます。せめて避妊・去勢から始めたかった、落胆の色を隠せないままとりあえず診察に入ります。話を聞いてみると、他院で12歳の時に精巣腫瘍と診断され、高齢だから様子をみようと言われてみていたらどんどん巨大になっていった、とのことでした。おそらくその先生もまさかゴールデンが15歳まで長生きするとは思ってなかったんでしょうね。少しだけ検討はしてみたものの、あまりにも怖すぎる、1件目のオペから大きめのリスクはしょいたくないので、もともとの病院に相談してもらうこととしました。そして売上は初診料の1000円。厳しいスタートです。

結局、初日はあと2件だけ軽めの診察があっただけ、売り上げも当然雀の涙でした。それでも楽観的な私は、「まあ大丈夫。今日が3件来たんだから、だんだん増えていくよ。ゼロじゃなくてよかった。」と、このあとに続く長い冬など、知る由もなかったのでした。

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6話 開業直前のバタバタ

 病院の内装工事も終わり、開業日が近づいてきました。それにつれてどんどん準備も慌ただしくなり、足りないものが山ほど出てきます。毎日のようにホームセンターや100均ショップに通い、ネット注文も万単位を頻発。合計いくら使っているかも把握できず、運転資金が足りるのか不安になります。看護師は奥さんがするので、あとはトリマーさんを1人募集。運よくすんなり経験者の方が応募してきてくれたので即採用です。2人には開業までの間、2000枚のチラシ配りを頑張ってもらいました。

 開業の前には、コンサルの指示もあってプレオープンを開催しました。チラシにプレオープン日を告知しておき、その日来てくれた方に記念品をお渡しして病院内を見学してもらうイベントです。開業前から顔見知りの人から、いかにも偵察に来ましたって感じの怪しげな人まで、いろんな方が来られます。中には、「うちは犬を6匹飼ってるんだけど、割引とかありますか?」みたいな人もいました。開業直後はいろいろサービスしたくなりますが、ここはぐっとこらえてスルーしましょう。 どれくらい来てくれるものか不安はありましたが、2日間で60人くらいだったかな?地方の病院としてはまずまずでしょうか。 みんなヘトヘトでしたが、なんとか無事にプレオープンも終わりました。

 カルテや飼い主様に渡す資料など、開業までの間に作ろうと思っていたら実際はそんなヒマもなく、結局直前まで毎晩のように深夜まで作っていました。もし流用できるものがあれば使いましょう。手術はできれば予行練習をしておいた方がいいですね。実際にやってみると足りないものがけっこう出てきました。そして、まだまだ足りないものがたくさんあるにも関わらず、とうとうその日がやってきてしまいました。

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5話 帰郷と開業準備

物件が決まってから2、3か月後、いよいよ退職となり、開業する地元へお引越しです。ここで1つ、退職する際はしっかりと有給を消化することを忘れないようにしましょう。有給をそのまま給与に替えることはできませんが、退職日より前に開業準備に取り掛かれるため、無給の期間を少しでも減らせるので助かります。私の場合は退職日の1ヵ月前から引っ越し、開業準備に取り掛かりました。それでも開業までの3か月くらいは収入のない暮らしになったので、けっこうキツかったです。

地元に帰ってまず始めたのが地元の卸業者さんたちとの打ち合わせや、保険、セキュリティ、電話、開業の手続き等々。融資申請もこの時行っていますが、その前に商工会や商工会議所には行っておいた方がいいですね。独立開業のための補助金について教えてくれたり、専門家による支援なども受けられます。私はそんなこと全く知らなかったので、完全にコンサル頼みになってしまっていました。

そもそも貯蓄は100万円もない状態での開業だったため、一番苦労したのはやはりお金です。一般的な銀行は当時の貸し渋りもあって全滅。頼みの綱の公庫は実家を担保、親を保証人に入れてやっと1000万。とてもこれでは足りません。親の退職金にも手を出して、親ローンは1500万。それでも足りない分は高めのローン会社3社からかき集めて1300万。内装や機械代を削ってなんとか運転資金が300万残りました。そして、勤めていた病院のやり方を参考に必要なものを揃え、とうとう開業の日が近づいてきました。

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4話 コンサルと物件の選定

「やはり開業するしかない」と決意した私は働きながら準備を始めることにしました。まず物件、特にテナント物件で探すことから始めたのですが、なかなか決めきれるものではありません。なんせ開業後の売り上げを大きく左右する要因の1つには間違いありませんから。遠方で働きながらの準備のためすぐに現地を確認することはできませんし、素人判断で物件を決めることに不安があった私はコンサルタントに物件選定をお願いすることにしました。

コンサルタントを決めるのはそれほど難しくありませんでした。当時、動物病院の開業を対象としたコンサルは医療機器卸し屋さんのおまけ的なサービス以外には3つくらいしかなく、本職でない業者に頼むのは違うだろうと考えていた私は個人でしているコンサルタントに依頼することにしました。この方は前職(動物関係ではない)の経験を元に開業されている方で、特に物件選定に関しては強そうなのが決め手でした。費用は100万円、ただ機械屋さんやデザイン屋さんは基本的にコンサル紹介の業者になるので、コンサル料以外に紹介マージンで稼いでいる方なのでしょうね。

依頼してからたまに候補は上がってくるものの、私が「これはいいんじゃないか?」と思ったものも含めて、ほとんどの物件はコンサルにはじかれて消えていきました。選び方としては周辺の人口とおおよその飼育率、視認性、線路・川などのマイナス要因の有無、近隣の動物病院などから考えていきます。結果的に、物件が決まったのは半年くらい経ってからでした。県内でも数少ない人口増加地域で坪単価が高く、しかも予定よりも敷地面積が大きい。大きい道路に面していて駐車場も十分あるコンビニ物件。当然立地はいいのですが、予定よりも高くなってしまった家賃についてコンサルに聞くと、「その分お客が来るから問題ないですよ」とのこと。家賃交渉で10%下げてもらい、物件を決定しました。それからは働きながら医療機器、内外装デザイン、融資の打ち合わせなどを進めていきます。打ち合わせだけならそんなに苦でもないので、不安よりも期待が勝って楽しい時間ではありました。

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3話 開業する覚悟と決意

2つ目の就職先の決定はかなり適当なものでした。なにしろ遠方の病院ですから、1泊2日で出向き、1日目に実習をしてそこで就職を決め、2日目には奥さんを呼び寄せて住む家を決めるというハードスケジュール。後々「こんなはずじゃなかった」が出てくるのも当然なわけで、これから就職先を探す方は単に職場の雰囲気や院長の人柄、獣医療レベルで判断せず、必ず労働条件を細かくチェックしておきましょう。ネットで出ている労働条件には載っていないことがたくさんありますので。

2件目の病院は診察時間が9:00~13:00および16:00~21:00の病院でした。これはわかっていたはずなのに、当時の私は労働時間が長いことをなんとも思っていなかったのです。結局、1日の労働時間は最短で08:30~21:00(休憩は1時間)の12時間半。もちろん、診察が長引いたり夜オペがあることもありますが、時間外手当はつきませんでした。休日は隔週2日なので1週間の労働時間は70時間以上。ご存知の方も多いと思いますが、労基法における1週間の労働時間は週40時間以内。それを超える労働は時間外手当として時給計算×1.25が、22時を超えるとさらに深夜手当がつくことが決められています。今から思えば、そういうところがちゃんとできていない職場で「ずっと働き続ける可能性」なんてそもそもないわけで、明らかに判断が甘かったと反省しています。

それでも徐々に待遇が良くなることを期待し、休日も潰して専門科の勉強もしつつ2年近く頑張ったのですが、昇給は微々たるもの(1年で平均3000~4000円)、賞与は1度もナシ、夜中の12時まで夜間携帯を持って夜間対応をしても1日5000円と一向に改善される様子がないためさすがにこれでは家族を養っていけないと思い、開業することを決意したのでした。

他の投稿でも触れていますが、もし勤務医の方が自分の労働に見合った給与をもらっていないと感じた場合、ぜひ一度自分の時給を計算してみてください。その時給はあなたが6年獣医学科に通い、国試に受かり、臨床経験を積んだ苦労が反映されているでしょうか?経営側にとって都合のいいように、安く使われてはいませんか?あなたの努力や苦労はもっと評価されてもいいはずです。下に時給の目安を記載しますので、参考にしてみてください。

新卒獣医の時給:1400円(月給約25万)

3年目獣医の時給:1700円(月給約30万)

副院長の時給:2300円~(月給40万以上)

4話 開業準備~前編~ へ続く

2話 第二の職場を探して

大学院時代の私は次の職場についてあれこれ悩み続けていました。

普通に開業しても難しいのは間違いない。まず、誰にも負けない専門性を身につけることを考えました。専門性のトップと言えばやはり欧米の専門医。調べたところ、一番簡単な方法としては大学院生になることらしい。ただ、これは当然ながらたくさんの費用がかかります。すでに妻子持ちだった私がアメリカで大学院生としてやっていくには最低2000万くらい必要と分かり、もちろんそんな貯金があるわけもないのでどうやってそれを稼ぐかを考え、行きついた先が株のデイトレード。貯金が200万くらいはあったのでそれを元手に勝負し、2000万貯まったらアメリカに行くと決めていました。結果は惨敗。当然うまくいかない可能性の高いことは覚悟していましたが、100万くらい溶かしたところで諦めることになりました。

次に考えたのは専門性の高い病院に就職して勉強することと、長く務めやすい体制の整った病院で勤務医としてやっていくこと。専門性の高い病院や大きい総合病院はなかなか自分の時間がとれないことが分かっていたので、家族との時間が大切になってきていた私は開業を視野に入れつつ、サラリーマンとしての獣医を模索し始めました。もし働き心地が良く、待遇もいい病院なら無理に開業する必要はないんじゃないかと。そして個人経営ではなく企業病院で探し、雇用体系がしっかりしていて診療もちゃんとしていそうな病院に就職を決めました。かなり遠方だったので今回の転居は家族に負担をかけたと思います。それでも、家族の時間もありつつ、ちゃんとお給料ももらえる職場と信じて旅立ったのでした。

3話 開業する覚悟と決意 へ続く

今後開業獣医がせまられる選択

ペットが減少し、動物病院は増え、さらにネット販売の増加、院外処方の増加、仕事のAIへの代替がわかっている以上、開業獣医にとって今のままのやり方では苦しくなっていくのが明らかなわけで、そろそろ我々は次の選択肢から選ばなければならないところにきている。

 

  1. より専門性を高め、高度獣医療に徹する
  2. カリスマ性を発揮し、病院を拡大し、地域の基幹病院として地位を確立させる
  3. 流れに身を任せ、なるようになると腹をくくる
  4. 小動物医療に固執せず、他の関連事業に拡大する

 

おわかりと思うが、1~3は激戦区における消耗戦で、競争に勝てばいいが、負ける可能性もそれなりに高いため、今後の経営手法としては私はおすすめしない。右にならえのやり方で、今までやっていることの延長のため気分的には楽なのだが、徐々に衰退していくリスクの高い方法であることに多くの開業獣医が気づいていない。いや、気づいているけど抗えないのかもしれない。

この20~30年で外部環境は劇的に変化しているというのに、動物病院で行われていることは医療機器がよくなったとか、電子カルテが増えたとか、軽微な変化に留まっている。もちろん、変化しにくい分野であるからというのもあるけど、今までのやり方にこだわらず、変化することを恐れず、働き方にイノベーションを起こしていく獣医がもっと現れてもいいんじゃないだろうか?

1話 期待と不安に満ちた学生時代

ここからは私のこれまでについて書いていこうと思います。

今となってはある程度安定した会社となっていますが、その過程でたくさんの失敗を繰り返しており、それを知っていただくことでみなさんのお仕事に少しでも役立つと幸いです。

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